ピケティが教えてくれた、売れるコンテンツの秘密

   

トマ・ピケティ著「21世紀の資本」ここ最近ピケティ本こと「21世紀の資本」が話題です。日本では2014年12月の発売以来大人気で、13万部に迫る勢いです。税込み5,940円のみすず書房の学術書が、Amazonの「ビジネス・経済」部門で第1位、本全体で第3位(2/4現在)なのですから、驚きますよね。

「21世紀の資本」はフランスの経済学者トマ・ピケティによって2013年にフランスで出版された学術書です。本書は3世紀にわたる20ヶ国以上のデータを元に、富と所得の歴史的変動について研究し、「r>g」、資本収益率が経済成長率を常に上回るという結論を得て、このままでは富の不平等が固定化して格差が拡大してしまうことに警鐘を鳴らしています。
2014年春の英語版からブームが広がり、アメリカでは発売以降半年で50万部のベストセラーとなりました。世界での売上は累計150万部を突破しています。なぜこんなに人気なのでしょうか?

といっても、筆者は「21世紀の資本」を読了しているわけではないので、学説を読み解くわけではありません。あくまで本が売れたという視点から、マーケティング的に役立つヒントを探って行きたいと思います。

ピケティ本が大ヒットした3つのポイント

ピケティ氏がどの程度マーケティングを意識していたのかどうかはさておき、結果的に世界中で大ヒットいう現象から見たマーケティングのポイントを読み取ってみましょう。

「潜在的な問題意識」というニーズ

世界中で格差や不平等の問題が存在しており、これでいいのかどうなのか、という疑問を非常に多くの人が持っていました。日本でも、「格差社会」が2006年の流行語になっています。ピケティ氏本人もTVのインインタビューで「(本が売れたのは)経済に不満を持つ人がたくさんいたから」と応えていましたね。「格差社会への意識」が心理的なキーワードとして存在していたのです。

インパクトのある内容

本書が評価されているのは、膨大な統計データ(収集・分析に15年かかったそうです)による裏付けで、格差の固定化・拡大についての理論付けを行い、シンプルな数式で問題を明確化した上、さらに対応策として具体的な提言を行っている点です。
特に、アメリカで大ブームとなったのは、米国人の漠然とした常識、アメリカン・ドリーム=成功も失敗も格差も自己責任という意識を揺さぶる刺激的な迫力があったからではないでしょうか。米国では「ピケティ革命」「ピケティ現象」とも言われ、格差問題についてさまざまな論争を呼ぶ契機となり、そのためにもまず本書を読まなければという意識が高まったのだと思われます。

カリスマ化と権威付けを意識したブランディング

ピケティ氏は各地で講演を行い、「ロックスターのようなエコノミスト」と呼ばれています。日本にもすかさず来日して講演や取材に活躍し、スター、カリスマのような扱いを受けていますよね。特に日本の場合は「世界的ベストセラー、大ブーム」「あのクルーグマンが絶賛」といった権威付けマーケティングもかなり奏功しているように思えます。

潜在ニーズにシンプル&インパクトある内容を提示し、カリスマ化と権威付けでブームを加速させる…こうやって分析すると、かなり王道のブランディング戦略ですね。

日本の読者層から見たピケティ本の位置づけ

ところで、日本でこのピケティ本を買っているのはどのような人々なのでしょうか。
発売から1月4日までの日販WIN+のデータを参照しますと、男性読者がほとんどであり、60代がピークです。(ただ、50代の伸び率も高くなっており、30~40代の若年世代読者も比較的多いとのことです)
参照:HONZ「年末年始はピケティ三昧!? 『21世紀の資本』を読んだ人たちは、どんな本を買っていたのか?」

読者層から推定する限り、日本のユーザーは一般的な経済・ビジネス書の読者層、いわゆる「知的な中高年ビジネスマン」が多そうですよね。
どうも、格差に不満を抱えた若年貧困層とは違う人々がこの本を購入しているようです。この知的ビジネスマン層の情報収集力や追随意識が意外と高く、話題と内容さえ揃えば重量級の高額商品でも消費するという現象が掴めたのは興味深いです。

ビジネスマンにとっての教養系コンテンツは、重厚長大から軽薄短小へという大きな流れをたどってきていたような気がします。読みやすい新書が量産され、テーマは細分化され、さらには書籍からネットへ、スマホへ、知の細分化ともいえる状況になっていました。

トマ・ピケティの提言は多くのビジネスマンが求めるニッチ分野だったしかし一方では21世紀に入り、金融危機だの第4次産業革命だの世界の貧困だの、グローバルな新情報だけが大量に流入し、断片情報のカオス状態に陥ることも多くなっているのではないでしょうか。
「この時代、この事象をざっくりどう考えればいいの?」という、総合的な考え方の指針、大局的な知のフレームや深堀りした情報へのニーズが高まっていたのですね。

今回のピケティ本は「格差社会」という、現代のビッグキーワードに対しての一つのソリューションであると同時に、「21世紀の資本」という、実に大局的で未来的な視野を感じさせるタイトルを掲げることで、知のフレームとしての価値観を示しています。
また、著書内のデータはWeb上で公開されていますし、ピケティ氏本人が「パリ白熱教室」で動画出演…などと、現代ならではの「クロスメディア戦略」を積極的に取っていますよね。
大局的なビジョンと新しさを端的に演出できているのです。

こと日本においては、格差社会への不満…というよりは、社会をどう捉えればいいのか?という大きな思考のヒントとして、ビジネスマン向け教養系コンテンツの手薄な地帯であった「重厚長大」×「新しい」ゾーンに、ピケティ本ががっつりはまったということではないでしょうか。

しかも、読み切る自信のなさからか、軽いゾーンの「入門書」=サテライトコンテンツも合わせて購入してしまう傾向が出ているのが面白いです。「重厚長大」な商品も、現代的なクロスメディア戦略とサテライトコンテンツ戦略を活かしてヒットに導くことができる事例として参考になりますね。

まとめ

  1. ピケティ「21世紀の資本」が日本でも大人気に
  2. ヒットのポイントは潜在ニーズ・インパクトある内容・カリスマ化&権威付け
  3. 「重厚長大」×「新しい」ゾーンのコンテンツへのニーズがあった

ピケティ氏の研究は、経済学分野ではあまり手がけられていなかった、世界レベルでの歴史的データの収集・分析を元にしています。この研究自体が他にはないものですから、なかなか本の売れ方のモデルだけで真似をしようとしても難しいでしょう。
ただ、何でも軽く、安く、専門化して…という傾向とは違う現象がここまで大きく出てきた点は注目したいですね。ピケティブームからユーザーの意識を読み、ビジネスのヒントにしていきたいものです。

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