リバイバル・マーケティングの成功事例、恵方巻きに学ぶ

   

恵方巻節分の「恵方巻き」はいつぐらいから広まったのでしょうか。
1990年代だったと思いますが、筆者は大阪の方に「節分の時は、巻き寿司を丸ごと1本、家族全員同じ方角を向き無言のまま食べる」と聞いて「なんという奇習…!」と驚き、面白がった記憶があります。
一方、今の子供たちはもう「恵方巻きは日本古来の伝統」と思っているかもしれませんね。
今回は、「恵方巻き」プロモーションのルーツと市場への普及の歴史を探ってみました。

巻き寿司プロモーションのルーツに見るUX発想

恵方巻きは、節分の日に恵方(縁起の良い方角)を向いて食べる巻き寿司です。元々はその食べ方から「巻き寿司の丸かぶり」「丸かぶり寿司」などと呼ばれていました。

Google Scholarより論文検索し恵方巻きを調べたところ、筑波大学の研究ノート(論文)の132Pに恵方巻きの発端について書かれてありました。
現代社会と「郷土食」 古家晴美(2008年)
これによると1940年の大阪鮓商組合後援会による宣伝用のビラが発端と書いてあります。独特の食べ方を、大阪船場の昔ながらの行事と謳っていたそうです。
さらにネットで検索すると、1932年の宣伝チラシが現存しているとの情報や写真もありましたので、戦前、昭和初期に大阪の一部ですでにプロモーションされていたのは確かなようです。

さすがは商都大阪、ちょっと非日常感のある「おもろい」風習を嗅ぎ付け、ユーザーエクスペリエンス(UX)の視点から商品宣伝を仕掛ける才覚が光っています。大阪は食道楽の地でもありますから、食がコミュニケーションや共通体験の場、文化であることをよくわかっていたのですね。

その後、戦争などで中断したと思われる丸かぶり寿司プロモーションですが、1970年代には海苔組合や厚焼き(玉子)組合も巻き込んで折り込み広告や宣伝が展開されていったようです。
コラボレーション企画の走りですね。そもそも、巻き寿司自体がさまざまな食材のコラボレーションです。材料の海苔、玉子、そして寿司業界、さらにデパートなどの小売店とさまざまな食品関係のメンバーを巻き込んで(巻き寿司だけに)、プロモーションを仕掛けていったのでしょう。

ただこの頃はまだ関西の地域的風習、イベントに留まっていました。丸かぶり寿司を再定義し、知名度を全国区に押し上げたのは、この1970年代に台頭してきた新しい小売業態・コンビニエンスストアです。

恵方巻き普及を牽引したコンビニと中食(なかしょく)市場

コンビニの中食1980年代半ばより、一部のコンビニエンスストアでもこの節分の巻き寿司が取り扱われるようになりました。
特に仕掛けの旗手となったのはセブン-イレブンです。1989年に広島の一部店舗で発売を開始し、着実に販売エリアを広げ、1998年には「恵方巻き」という名称で全国展開に踏み切りました。

1990年代は、右肩上がりのコンビニエンスストアの店舗数がさらに急激に増加していった時期と重なります。各地方に出店していく中、地元での存在感を強化する商品として、日用品とはちょっと違う季節性・話題性のある恵方巻きは、ひとつのコミュニケーションツールとしても役割を果たしていったのではないでしょうか。
そしてもちろん、ニッパチ(2月・8月)と言われる売上の厳しい季節において、フランチャイズシステム本部と加盟店オーナー達がこの商品で数字を取るためにさまざまなプロモーション強化や販売努力をしたであろうことも想像できます。

この頃は、中食(なかしょく)という言葉が言われだした時期です。日本人のライフスタイルが変化し、家庭での食事風景も変容していきました。核家族化や働く女性の増加で、外食でも自炊でもない中食市場が発展し、コンビニエンスストア自体の定着と共に、コンビニで惣菜やお弁当を買う習慣も日常化していったのです。

節分は幼少時から刷り込まれている認知度の高い季節行事でありながら、「豆」以外にこれといって代表的な食事メニューはありませんでした。そこへ、献立を考える手間いらずのコンビニエンスな恵方巻きが、「風変りな食べ方」「毎年変わる吉方位」といった斬新な食体験と共に提案されたのですから、忙しい母たちなど、中食市場を支える消費者のニーズと興味にはまったのですね。

商品の再定義とリバイバル・マーケティングとは

リバイバル・マーケティング「恵方巻き」というネーミングも実に秀逸でした。「恵方巻き」と名付けたことにより、懐かしいのに新しい、幸運を併せ持つ、個性的な食体験も想起させる一品として、商品の存在そのものが再定義、リ‐ブランディングされたのです。戦前の大阪から続く丸かぶり寿司のコンセプトを改めて全国目線でまとめた「刺さるキーワード」の発見が、全国への普及の足掛かりとなったんですね。

前述した論文の中では、この恵方巻き普及の経緯を「フォークロリズム」の問題と関連づけています。フォークロリズムとは、民俗学的な文化事象が、定着していた場所の外で新しい機能を持ち、新しい目的のために行われることを指しているそうです。
こう書くとちょっと難しい概念ですが、仕掛ける側のマーケティング的な視点で見ると、昔ながらの商品や地域の風習等を、再定義してリバイバルするプロモーション手法といえますよね。

恵方巻きは、70~80年前にすでに行われていた地域レベルのプロモーションを、商品自体の再定義をしつつ現代にリバイバルさせたマーケティングの成功事例なのです。
このリバイバル・マーケティングの考え方は、いろいろなビジネスプランの参考になりますね。昔あった企画を現代の環境に置き換える手法を使うと、ユーザーの動機づけもやりやすくなります。人は昔からやっていた(らしい)ことや懐かしいイメージ、知っている味など、どこかで安心・共感できる要素のある商品やサービスを受け入れやすいからです。

まとめ

  1. 恵方巻きプロモーションのルーツは戦前の大阪
  2. コンビニの成長と中食市場の発展が恵方巻きを全国区へ
  3. リバイバル・マーケティングの考え方をビジネスに生かそう

ユーザーエクスペリエンス発想のプロモーション、業界を巻き込むコラボレーション…恵方巻きの歴史を紐解いたことで、現代に通じるマーケティング発想が近代日本で脈々と培われていたことが再発見できました。
マス広告、店頭販促、Web…いかに時代が変わり、どのような媒体を使おうとも、応用できるアイディアはたくさんあります。目の前の現象を少し深掘りすることで、マーケティング戦略や企画のヒントを発見していきましょう。

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